鋼板は、溶断や溶接など熱を加えるたびに伸縮して歪(ひずみ)が生まれます。BH鋼の場合、4シーム(箇所)を溶接するわけですが、同時に溶接はできないので、最初に溶接した箇所が勝って、鋼板全体が一方に歪んでしまいます。
つまり、まっすぐだった鋼板が自然に、ねじれ、倒れ、曲がり、傘折れといった状態になるのです。製品の歪具合を見て、溶接された反対側の面をバーナーで3カ所、8カ所というようにスポットで熱を加え形状を正していきます。この修正作業を、歪取りと言っています。
“鉄は生きている”という感覚で、一枚ごとの鋼板と対峙する仕事なのです。
焼きは、職人として魅力的な職場と言えます。いつも違う状態とテーマが与えられ、なぜという目を持って鋼板と向きあい、カンやアイデアを含めた職人本来の総合力が問われるからです。十字柱には歪取り技術のすべてを投入する苦労と楽しみがあるし、橋梁に使われる変形鉄骨のキャンバーは、荷重を考え、あらかじめふくらむように歪も造ります。鋼板は焼きを加えるほど劣化しますし、時間をかければ生産量が落ちます。
時には前の工程と話し合って、仕事が出ないよう理想を求めたりもしますよ。頭を使ってコツを覚える、もの作りの緻密さがここには凝縮されていますね。
新人には、まず安全第一の基本作業を教えます。バーナーの持ち方と機能、火力の性質を教え、材質、板厚、形状、製品の高さ、歪の具合などにあわせて一つひとつ指導していきます。いくつかルールもありますが、個別に焼きの指示も違うし、マニュアルが作れない作業でもあります。各々の長所を伸ばす方針ですが、とにかく「焼きは数をこなせ」としつこいほど言います。
ただし我慢して続けていても、だめなものはだめですけれど。黙ったままの新人には「いま訊ねなかったら、10年後に笑われるぞ」とはっぱをかけます。気持ちが走っていて、気の利く人が理想ですね。